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放射線治療と免疫力について

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岡江久美子さんが新型コロナウイルスの肺炎で亡くなったというニュース、とても衝撃的でしたよね。
母がはなまるマーケットを見るのが好きで、僕もたまに見ていました。
ニュースを見ている中で、「放射線治療による免疫力低下で肺炎が悪化した」という主旨の報道をしているメディアがありました。
岡江久美子さんは、昨年の末、早期乳癌の手術を受けており、その後、今年1月から2月にかけて放射線治療を受けていたそうです。
その影響で免疫力が低下し、コロナの重症化につながったのでは?という意見でした。
今回は放射線治療と免疫力について解説します。

放射線治療と免疫力

今回の「免疫力の低下」が白血球の低下を指すものとします。
結論から言うと、「早期乳癌の術後放射線治療」で免疫力の低下が問題になることはありません。
たしかに、放射線による副作用には、照射後数週間以内に出現する早期障害の一つに赤血球・白血球・血小板の減少があります。
これらの血液成分は脊椎や骨盤などの骨髄で作られています。
そのため、脊椎や骨盤に放射線を当てた場合、骨髄の機能が低下(骨髄抑制といいます)し、赤血球・白血球・血小板の数が減少することがあります。
ただし、放射線のみで治療する場合(抗がん剤を併用しない場合)、脊椎を広範囲に照射しない限り、問題になることはありません。
今回の早期乳癌の術後放射線治療では、乳房に限局して放射線を当てます。
したがって、放射線治療による免疫力低下は起こらないと考えた方がよいです。
化学療法(抗がん剤)を併用する場合も骨髄抑制が起こることがありますが、手術と放射線治療の時期的に今回のケースで化学療法が行われたことは考えにくいです。

放射線肺炎について

もう一つ、新型コロナウイルスによる肺炎を重症化させる原因として、「放射線肺炎」をあげている方もいました。
まず、放射線肺炎についてまとめます。
・肺癌や乳癌などに対する放射線治療によって肺に炎症をきたした状態。
放射線照射後2~6か月後に起こることが多い。
・症状は、発熱、咳、呼吸困難など。無症状のことも多い。
前述のように、乳癌の術後放射線治療では乳房に限局して放射線を当てていくのですが、場所が近いため、肺にも多少は放射線が当たってしまいます。
胸部エックス線や胸部CTの画像で、放射線を当てた部分に一致した陰影がみられることで診断されます。
放射線肺炎はまれな合併症ですし、報道されている情報を見る限り、今回のケースで明らかな放射線肺炎が起きていた可能性は低いと思います。

まとめ

放射線治療と免疫力についてお話ししました。
放射線治療の中には骨髄抑制によって一時的に免疫力が低下するものもあります。
また、逆に免疫抑制の効果を期待して放射線治療を行う場合(例:移植前治療)もあります。
従って、「放射線治療は免疫力を低下させない」とは一概には言えませんが、乳癌の術後放射線治療に限って言えば、免疫力の低下は問題にならないと考えてください。
コロナが重症化するからといって乳癌の放射線治療を中止せず、必要な放射線治療はきちんと受けましょう。